daniel-yangのブログ

メインブログ「受動態」(読書感想文ブログ)とは異なる内容を気まぐれで記します。

夏休みの宿題「読書感想文」にオススメ。安部公房の短編「洪水」(短篇集「壁」に収録)

 安部公房の短編「洪水」をオススメします。

新潮文庫の短篇集「壁」に収録されています。

壁 (新潮文庫)

壁 (新潮文庫)

 

 中学生か高校生にお勧めです。

オススメのポイント。

1.わずか8ページ(僕の手元にある昭和四十四年発行の文庫の場合(^_^;)

 読むのに要する時間は僅かです。

 

2.安部公房はビッグネーム

 昨今ノーベル賞選定時期になると「村上春樹が受賞するのではないか。」と期待され話題になりますが、生前の安部公房も「今度は安部か。」とノーベル賞受賞が期待され、噂されました。当時ストックホルムの図書館に日本人の作家作品は安部公房ぐらいしか無かったとか。

 またオススメの「洪水」を収録している短篇集「壁」のおおよそ半分(128ページ)を占める「S・カルマ氏の犯罪」は芥川賞受賞作です。

 安部公房は、若い頃に共産党員だった時期があります。もし、僕のオススメのとおり中高生が夏休みの宿題に本書を選び、家の人に「安部公房を読むんだ。」と言った場合、あるいは「共産党かぶれになったのか。」と心配されるかもしれません。が、最近の国語の先生なら「おぉ、名作を読んだのだな。」と好意的に受け取られると思います。

 

3.読解力をアピールできます。

 最近流行の言葉で言えば、安部作品は読者にリテラシーを要求します。

 「前衛」と言うか「実験的」な作風が特徴的です。奇想天外です。いい加減に読むと、意味不明なまま、狐につままれたような感想を持つと思います。でも、丁寧に読み、描かれている奇想天外な内容を理解すると、著者が言わんとすることがはっきりと解ります。

 逆に言えば、安部公房の作品の読書感想文を書き、それが、しっかりと内容を理解したモノであれば、国語の先生は「この生徒は、読解力がある。」と判断するはずです。

安部公房を読んだことがない、または読んだけど良く理解できなかったと言うような、不勉強、または国語力が乏しい国語の先生だと「安部公房を読みました。」に効き目が無いかも知れませんが。)

 

4.昨今話題の「マスコミの倫理」がモチーフになっています。

オススメの「洪水」は、勤勉な労働者が次々と溶けて液体になり、裕福な支配者階級をおぼれさせながら、ついには全世界を水没させる物語です。共産主義革命を匂わせる内容です。ただし、このモチーフは、時代背景が戦後の労働運動が活発だった時期でもあり、現代ではそれほど重要ではありません。読書感想文には「時代背景を反映させ、共産主義革命を匂わせる内容だが」とちょっと触れておけば良いでしょう。

それよりも、注目に値するのは、洪水を報道する新聞を大いに皮肉っている点です。

4-1. 洪水の初期の段階で、大洪水を否定しました。「デマ」である、と。もっともらしい理由を列挙して。

4-2. 誰もが洪水を目にする時期にいたると、ひるがえって洪水を肯定した記事を載せました。しかし根拠のない楽観論で「一時的な現象」と報じました。虚報で読者を安心させようとした形です。結果として読者に洪水への対処を遅らせて被害を拡大させました。

4-3. 政府が対処のために労働者に強制労働を課し、堤防の構築など過酷な現場に送り込み始めると、新聞は強制労働の必要性と、それが正義であることを報じました。いわゆる御用記事を書き始めたワケです。

4-4. 強制労働に駆り出された労働者が大勢帰らぬ人になっているにもかかわらず、新聞は洪水が原因であることを告げずに、単に行方不明があることを報じるだけでした。

僕は中学生の時には新聞を信用していました。そこで、授業でこの小説が取り上げられた際に先生に質問をしました。「何故、新聞を信用できないモノとして批判しているのか?」と。

すると、先生が解説してくれました。

 これは、第二次世界大戦中の新聞が、敗戦が色濃くなりつつある状況を取り繕って発表された軍部の「大本営発表」をそのまま記事にするに留まらず、架空の武勇伝(日本刀で敵市民を百人斬りとか)をねつ造し、国民を戦争に熱狂させ、政治家の講和への取り組みを妨げた事た反省しているのだ。

と。

もし、みなさまの国語担当の先生が、昨今の新聞の報道に批判的ならば、「現代にも通用する教訓である。」と感想文を締めくくっても良いですし、

もし、みなさまの国語担当の先生が、今でも新聞の信奉者であれば、「昔の新聞は、間違った報道をしていた。」との感想に留めておくのが良いでしょう。

もし、現代の報道に絡めて感想を書くのであれば、例えば原子力発電所の事故で、子供の被曝が防ぐことが出来た、との政府の統計発表を元に、「結果はよくわからない。原発事故の影響でガンが増加している」と思わせる記事を発表した新聞を批判したり

(参照「甲状腺被曝被害は防げたようですね? - daniel-yangのブログ

メルトダウンと言う言葉を使って、不安を煽る報道を批判しても良いかも知れません。

(参考「「偏差値」と「メルトダウン」は似ている。 - daniel-yangのブログ

 

5.文体の不一致を指摘する。

感想文では、文体の不一致を指摘してテクニカルな側面にも触れてみましょう。
「こいつは、国語が出来る。」
と一目置かれるかも知れません。

時々体言止めを用いている他は、この小説は常体(~である。~だった。)で書かれていますが、一箇所だけ敬体(ですます調)にしている箇所があります。

4段落めの末尾

「翌日、彼は世界に向かって大洪水の到来を予言しました。」

です。

素人が書いた文章ではありませんから、もちろん著者が意図しているはずです。

僕が思うに、短い短編のなかで、読者に一区切り間をおかせるリズムとしての効果を期待しているのでは無いかと思います。

ここまでは、一人の哲学者が宇宙の法則をさぐるための天体観測を描写していますが、この後は洪水に巻き込まれる世界の描写に切り替わります。

「シーンの移り変わりを短い小説の中で効果的に演出していると思います。」

というような感じで指摘すると、良い評価が得られるかも知れません。

 

それでは、残り少ない夏休みを有意義にお過ごし下さりませ。