daniel-yangのブログ

メインブログ「受動態」(読書感想文ブログ)とは異なる内容を気まぐれで記します。

岩井俊二監督と宮沢賢治

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打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

久しぶりに見ました。
岩井俊二監督の劇場公開デビュー作品です。
フジテレビの「If もしも」シリーズとして1993年8月に放送され、1995年8月に映画として劇場公開されました。
花火大会が開催される夏休みの登校日。花火は横から見ても丸く広がって見えるのか、はたまた平べったく見えるのか。夏休みの宿題を賭けて、少年たちは花火が横から見える灯台まで歩いて行きます。
一方、親の離婚が決まり二学期から転校せねばならぬ女の子が、級友にも自分の転校を言い出せぬまま、級友の男の子を誘って駆け落ちを試みます。
ジョブナイルのお手本のようなドラマです。僕は大好き。
いや「好き」を通り越して僕の夏休みの思い出そのものです。
駆け落ちに誘われた男の子は、女の子に振り回されるワケだけれど、何か事情があることを察し、灯台への遠足をドタキャンし、女の子につきあってあげます。
この優しさは、大人になってから見ると
「おれも、そのくらい懐が深ければなぁ。」
と思うことしきりです。

REMEDIOSによるサウンド・トラック

ちなみに、サントラも持っています。時々カーステレオで聴いています。REMEDIOSが手がけています。オープニングの「Island」を聴くと
「さぁ!夏がやってきました!」
と言う気分になり、元気が出ます。

少年たちは花火を横から見たかった

なぜ、今になってこの映画を(PCでDVDを再生したのですが)見たか、と言えば、撮影から六年後、十九歳になったなずな役の奥菜恵と典道役の山崎裕太が撮影現場を訪れるドキュメンタリーDVDを見て、誘われたから。
このDVDで岩井俊二監督が、宮沢賢治作品について語っていた記憶があったからです。

リップヴァンウィンクルの花嫁

と、言うのも、今年(2016年)3月26日に上映が始まった岩井監督の最新作「リップヴァンウィンクルの花嫁」
の監督本人による原作小説
を読んだから。
主人公の女の子は、ソーシャルネットワークで「クラムボン」と名乗っています。
「お、宮沢賢治つながりだな。」
と、岩井俊二監督の宮沢賢治へのオマージュ作品であることが伺われ、もう一度岩井俊二が語る宮沢賢治を確認しようと思ったわけです。

宮沢賢治銀河鉄道の夜

は、実は銀河鉄道の夜
をモチーフにしているそうです。(と、上記DVDで岩井俊二監督が語っています。)
モチーフと言っても、スターウォーズ七人の侍をモチーフにしている、と言われるのと同程度のものですが。
打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」では、駆け落ちをやめて、学校のプールに忍び込んだ二人。ひとしきり水遊びではしゃいだ後、
「次に会えるのは二学期だね。楽しみだね。」
と最高の笑顔で女の子が微笑みかけます。恋人がいて、うれしいのは、このような笑顔を交わした時だ、とつくづく思います。いや、この二人はつきあっているわけではありません。しかも、そう言う女の子は、転校が決まっていて、二度と会えないことを知っているはずです。
視聴者に謎として残る、印象深いシーンです。

銀河鉄道の夜」の再構築

この謎が、実は筑摩書房版全集の編集過程で綿密な検討が行われ、原稿の順序が入れ替えられる前の「銀河鉄道の夜」を読んだ、岩井監督の記憶が元になっているそうです。
ちなみに、僕は(岩井監督より少し年下ですが)小学生の時に、国語の授業で先生が解説したのが記憶にあります。
銀河鉄道の夜」は、宮沢賢治が生前に発表したものではありません。
死後に遺稿として発見されたもので、原稿の順番なども分からぬし、見つからない部分もありました。残された人が研究を重ね、最近、順序が入れ替わったのだよ。
と。
詳しくは、DVDを買ってごらん下され。今更ですが、amazonのレビューで僕が解説を加えておきましたから(笑)

やまなし

ところで「クラムボン」ですが 、僕はNHK BSプレミアムで、2013年に放送された「80年後のKENJI」が記憶に残っていました。番組については、下記データベースサイトがご参考になるかと。
クラムボンはわらったよ」と、兄弟のカニが、清流の底から、水面を眺めてお話ししている、紙人形劇ふうのアニメが印象に残っています。
で、気になったので、本日青空文庫で読み返しました。
そして、読了後早速、ブクログに感想を記しました。
でも気がついたら、僕の(リアル)書庫にある新潮文庫の(新編でない)「銀河鉄道の夜
にも、角川文庫の「セロ弾きのゴーシュ
にも、収録されており、僕は二冊も「やまなし」を持っていることに気がつきました(汗)
ブクログに投稿した感想を転記します。

ブクログへの投稿

クラムボンはわらったよ。」
が印象的な童話です。
二匹の沢ガニの兄弟が、川底から水面を見上げている風景を描写しています。
僕の手元にある角川文庫「セロ弾きのゴーシュ」に収録されているものは、七ページです。短編と言うよりは、掌編と言うべき作品で、小説と言うよりは、散文詩と言うべき作品です。

岩手山を右に見ながら雫石峠を越えて秋田県側に迂回して行くと、田沢湖の手前に乳頭温泉郷があります。温泉郷の宿の一つに「蟹場温泉(がにばおんせん)」があります。
夏の盛りに蟹場温泉の露天風呂につかっていたとき、熱い湯へ加水するために引いている沢の水の流れに沿って沢ガニが歩いているのを見かけたことがありました。
それまでカニと言うと、贅沢な食事として出される海のカニしか知らなかった僕は、その小ささに驚きました。
地元の方にお話を聞くと、小さいので食べる時には、丸ごと揚げて食べるのだそうです。
そんな小さな沢ガニの子供の兄弟。小川の流れの底で遊んでいる最中に、川面に上る泡を生物に見立てて「クラムボン」と名前を付けたようです。
「わらったよ」
「死んだよ」
と、泡ができて、浮かび上がり、流れて、消えていく様子を二人で眺めながらお話をしています。

光る水面を背景に、行き交う魚、ながれてくる山梨を眺めているのは、カニの兄弟なのですが、あたかも、自分もかたわらにたたずみ、一緒に眺めているかのような幻想にひたりました。クラムボンが月明かりを反射し、青く光る光線を、僕も目にしたかのような錯覚を覚えました。

 実際に蟹場温泉の露天風呂で沢ガニを見かけたのですが、上記は、多少脚色を加えています。
宮沢賢治作品についてのコメントだから、秋田県の温泉を無理矢理岩手山に絡めて説明しています。が、これは、少々無理があります。実際に、岩手県雫石町小岩井牧場から、さらに登った網張り温泉から見ると「岩手山の向こう」と言うべき地理なのですが、雫石峠を越えて、ほぼ田沢湖に到着した後、乳頭山(岩手県の人は、烏帽子岳と言う)に上って行くコースになります。
それと、僕は「クラムボン」を水泡だ、と断定しているわけですが(僕は小説を読んで、そうとしか読めませんでしたが)いろいろ説があるそうです。
ま、とにかく、小さなカニの兄弟の童話です。
えっと、とりとめも無くなりましたが、夜が明けてしまうので、これにてエントリーします。
四国では「リップヴァンウィンクルの花嫁」のロードショーが春の大型連休が終わったあと、しかも高知県では予定が無く、愛媛県に行くことになる、少し寂しい早春の暁でございました。